周囲で感染症が流行しているのを見聞きして、赤ちゃんがかかってしまうのではないかと心配されるお母さんもいらっしゃることでしょう。とくに、お母さんにかかった記憶もなく、予防接種を受けたかどうかも不明のときには、「自分がかかったら困るし、さらにそれが赤ちゃんにうつると心配だわ。予防接種を受けたほうがいいと聞いたけど、授乳を続けても大丈夫なのかしら」と悩んでしまうかもしれませんね。
では、順番に考えていきましょう。
(1) 原則
現在行なわれている予防接種の中で、授乳中のお母さんが接種したときに授乳を避けなければならないものはないとされています(Red Book 2006 pp124)。
お母さんの血液を調べれば、その病気に対する免疫があるかどうかを確認することができますし、感染を防ぐだけの十分な免疫がないときは、予防接種を受けることで、お母さん自身への感染を防ぐことができます(麻疹や水痘に対する免疫があるかどうかは、たいていの医療機関で受けることができます)。しかし、免疫があるかどうかを確認せずに予防接種をしても、とくに問題はありません。
生ワクチン《病原性の低い生きたウィルスを接種することで、免疫を作る予防接種です。例:麻疹(はしか)、 風疹(三日ばしか)、水痘(みずぼうそう)、ムンプス(おたふくかぜ)》の予防接種を受ける時は妊娠していないかどうかを確認し、受けたあとは2ヵ月間避妊するようにしましょう。受けた後で妊娠していたことがわかっても、赤ちゃんへの悪影響は報告されていませんが、妊娠していることがわかっているときに予防接種を受けるのであれば、できるだけ妊娠後期にするほうが好ましいといわれています(Red Book 2006 pp69)。
(2) はしか(麻疹)・みずぼうそう(水痘)・風疹
赤ちゃんが麻疹にかかると重症になります。予防接種を受けたことがあっても、接種後10年程度で免疫が低下することがあるといわれていますので、お母さんを含めご家族で麻疹にかかった事のない方がおられるときには、まわりが予防接種を受けることで赤ちゃんを感染から守ることができます。小児科関連の学会は、お子さんには1歳になったらすぐに麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)を受けるように推奨しています。
水痘は分娩前後にお母さんや赤ちゃんがかかると非常に重症となります。妊娠可能年齢になったら、自分が水痘に対して免疫があるのかどうか、確認するといいでしょう。
また、妊娠中の検査で風疹に対する免疫がないことがわかった場合には、出産後、産科入院中に風疹の予防接種を受けることが勧められています(平成16年厚生労働省研究班「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」より)。
(3) 百日咳、インフルエンザ
成人の百日咳の流行もニュースで流れています。百日咳に対する免疫が十分でない場合、百日咳が含まれている3種混合ワクチンを接種するといいかもしれません。百日咳は新生児がかかると非常に重症になり、 死亡することもあります。3種混合ワクチンは生ワクチンではないので、授乳中だけでなく妊娠中も接種可能です((Red Book 2006 pp503)。
インフルエンザの予防接種は、授乳中はもちろん妊娠中も可能です。アメリカ小児科学会は、妊娠中のどの時期であれ、秋にインフルエンザの予防接種をうけるよう勧めています(Red Book2006 pp408)。
お母さん自身の予防接種をどうしたらよいか迷う場合には、小児科医に相談してみるのもよいでしょう。
【参考文献】
- Committee on Infectious Disease, American Academy of Pediatrics. Red Book、Report
of the Committee on Infectious Disease, 26th ed. Elk Grove Village,Ill,
American Academy of Pediatrics. 2006
2006.6.20 作成、2009.12.29 一部改訂 |