本文へスキップ

Japanese Association of Lactation Consultants

母乳育児Q&AQ AND A

11.仕事と保育園 ̶ 母乳育児の継続について

母乳育児の継続について
職場復帰するので子どもは保育園に預かってもらうことになりました。母乳は続けられないのでしょうか?
 職場復帰に際して、母乳を続けられるか、続けるにはどうしたらよいのかとご心配なのですね。前向きに情報を集めようとされていて、 素晴らしいです。
子どもを預けるにあたって、多くのお母さんは様々な心配を抱くようです。
保育園で子どもをみてもらっている間、母乳はどうやって与えるの? 仕事中、私の乳房はどうなるのだろう? 子どもは母乳なしで大丈夫?ご心配の内容も 人それぞれ様々ですが、以下によくあるご質問に対するお返事をまとめてみました。参考にしていただければ幸いです。

1、仕事を始めても、母乳育児を続けると様々なメリットがあるといわれています。まず、あなたがなぜ母乳育児を続けていきたいのか、母乳育児の良い点について、 など幾つかの理由をあげて伝えてみましょう。

1)お子さんにとっては?

 保育施設にいる子どものうち母乳を飲んでいる子どもの方が風邪や中耳炎などの感染症にかかりにくく、かかっても重症化しにくく、早くよくなると報告されています。 (文献1)
 喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の予防のためには、日本においても世界においても、母乳で育てることが推奨されています。(文献2)
また、ウイルス性呼吸疾患は喘息の増悪因子ですので、母乳の免疫力により感染が減れば、喘息発作の発症頻度も少なくなるでしょう。
 母乳育児を長期に継続することにより、小児がんの罹患率の低下、認知能力の向上、成長してからの生活習慣病、膠原病などのリスクが低下することが知られています。 (文献3)
 母乳で育てられた子どもはより健康に育つということですね。

2)あなたにとっては?

 母乳育児期間が長いほど乳がん、卵巣がん、骨粗鬆症、糖尿病などの病気にかかりにくい傾向がありますし、妊娠中に蓄えた余分な体重が落ちやすく、肥満を防ぎます。 (文献4、5)

3)あなたとお子さんの関係は?

 仕事で離れていても、お子さんと再会して授乳をすると、子どもとの結びつきを強く感じ、精神的なきずなが持続します。(文献6、7)

4)あなたの仕事への利点もあります!

 お子さんの病気が理由での欠勤が減少し、ひいては勤務調整のための手配などの問題が減ります、そして仕事の能率があがります。(文献8)
 あなたのワーク・ライフ・バランスがとりやすくなる。ということにもなりますね。

5)職場が母乳育児を支援すると雇用主にとっても利点があります。

 育児支援の充実は、離職率が低下しコスト削減ができます。雇用主の社会的信頼がアップし、従業員やその家族の健康上の問題が減少することから、 健康保険の支出が減少します。(文献8)
2、次に、母乳育児を続けるための具体的な方法を探してみましょう。

 働きながら子育てをする両親を支援する法律的保障があります。法律の記載をもとに職場や保育施設と話すことは、あなたの役に立つかもしれません。
 さて、どんな法律があるでしょう。

1)あなたが仕事中に搾乳をする時、育児時間を搾乳の時間に利用できます。

労働基準法67条
育児時間の保障
•生後1年未満の子どもを育てる女性は1日2回、少なくとも30分ずつ育児時間を請求することができる。時間短縮の形で1時間にしてまとめてとることもできる。(文献9)

2)あなたやパートナーが育児休業を取り、短時間の勤務を請求することで、長期にわたる母乳育児がしやすくなるかもしれません。

育児介護休業法
2009年7月改正
•父母がともに育児休業を取得する場合、1才2ヵ月までの間に1年間育児休業を取得可能とする(パパ・ママ育休プラス)
•3才までの子を養育する労働者について、短時間勤務制度(1日6時間)をもうけることを事業主の義務とし、労働者から請求があったときの所定外労働の免除を制度化する。(文献10)

3)あなたの職場の、育児支援の環境を確認することができます。そしてその環境を利用するためには下記の法案が参考になります。

次世代支援
育成対策推進法
•従業員101人以上の企業は、仕事と家庭を両立するための雇用環境の整備についての行動計画の公表、従業員への周知が義務化(平成20年11月改正)(文献11)

4)保育施設に冷凍母乳の受け入れのお願いをするためには以下があります。

 保育所保育指針(児童福祉法)
•乳幼児期の食事は生涯の健康にも関係し(中略)一人一人の子どもの状態に応じて摂取法や摂取量などが考慮される必要がある。
•母乳育児を希望する保護者のために、冷凍母乳による栄養法などの配慮をおこなう。冷凍母乳による授乳を行うときには、十分に清潔で衛生的な処置が必要である。(文献12)


保育所食育に関する指針
(食育推進基本法)
•冷凍母乳の受け入れ体制も整え、母乳育児の継続を支援できるように配慮する。 (文献13)


母乳の保存方法と期間については 資料1:母乳にやさしい保育園 を参照ください。

3、搾乳について知っておきましょう。具体的な方法は Q&A:搾乳 をご覧ください。

 搾乳は、保育施設へ搾母乳を届けるためだけが目的でなく、定期的に搾乳をすることで、母乳分泌を維持させることもできます。
 仕事を始める2週間位前から搾乳の練習をし、搾乳した母乳をストックしておくと安心です。
 職場で搾乳をすると、おっぱいの張り過ぎを防いで、母乳の分泌を保つことができます。プライバシーの保たれる場所で搾乳できるように、職場と話し合っておきましょう。

搾乳の回数の目安です。(文献14)
子どもと離れる時間が
•4時間未満:搾乳は不要
•4~6時間:最低1回搾乳(最後に授乳した2~3時間後)
•8時間以上:3時間ごとの搾乳

搾乳時間が取りにくい場合は?
 出勤直前と帰宅直後の直接授乳にプラスして昼休みや他の時間に1回搾乳、午前中と午後に乳房の緊満を取るために約5分搾乳、昼休みに10-20分かけて搾乳し保存という方法 もあります(文献15)。ただ、働き始めてしばらくすると、お子さんと一緒にいる時はたくさん母乳が出て、仕事中はそんなに乳房は張らなくなってきますので、 その都度搾乳をしなくても分泌が維持されるようになります。

4、哺乳びんをいやがる場合の、対処法があります。(文献14)

•保育者や保育場所に慣れ信頼関係を作ることが大切です。安心すると飲めることが多いです。
•慣らし保育で2~3時間預け、送迎時に直接授乳するといった段階を踏むとよいでしょう。
•子どもの空腹のタイミングをみます。
•お母さん以外の方が哺乳びんを使います。
•哺乳びん以外の方法 (コップ、スプーン、スポイトなど)があります。

5、働き始めてから授乳のペースが変わることがあります。

•夜間、母乳を飲みたがる場合は昼間母親と離れているとき、子どもの睡眠パターンが変わることがあります(文献15)。 楽にできる添い寝、添え乳の方法を工夫して みましょう。
•忙しい帰宅時と朝に何度も飲みたがる場合はお母さんが家事よりもお子さんのニーズを優先できるように、家庭内での家事の分担を再調整しましょう。予定より20分早く 起床してまず授乳 。朝の支度をして出かける前にまた授乳。保育園でお迎え時にその場で授乳。(文献6)

「ラ・レーチェ・リーグ日本」から「働くお母さんの母乳育児」「母乳の搾り方 手を使って」の冊子が出版されています。 こちらから

 保育施設への要望の手紙と、職場への母乳育児継続支援依頼の手紙を作成しました。利用してみてはいかがでしょう。

 下記の資料(PDF)がダウンロードできます。
  資料1:母乳に優しい保育園
  資料2:保育園への手紙
  資料3:雇用主への意見書

 仕事を始めた後も、楽しく母乳育児が続けられるといいですね。
 【参考文献・資料】
  1. Dubois L,Girard M, Breastfeeding, day-care attendance and the frequency of antibiotic treatments from 1.5 to 5 years :a population-based longitudinal study in Canada. Soc Sci Med.2005; 60(9): 2035-44.
  2. 日本アレルギー学会. アレルギー疾患診断治療ガイドライン2010、協和企画、2010、p35-39
  3. American Academy of Pediatrics, Section on Breastfeeding、Breastfeeding and the use of human milk. Pediatrics. 2012; 129: e827-e841
    「母乳と母乳育児に関する方針宣言(2005年版)」の日本語訳は次より 
     https://www.jalc-net.jp/dl/AAP2009-2.pdf (2014年10月確認)
  4. 所恭子. 母親にとっての母乳育児の利点.母乳育児支援スタンタート, NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会編、医学書院, 2007.p81-88
  5. BFHI2009翻訳委員会. UNICEF/WHO母乳育児支援ガイド ベーシック・コース、医学書院、2009、p302-305
  6. ラ・レーチェ・リーク・インターナショナル. 働くお母さんの母乳育児(実用的なヒント)、ラ・レーチェ・リーク日本,2006. http://www.llljapan.org/ (2014年10月検索)
  7. Cohen R, Mrtek MB, Mrtek RG. Comparison of maternal absenteeism and infant illness rates among brestfeeding and formula-feeding women in two corporations. Am J Health Promot 1995;10:148-53
  8. The CDC Guide to Breastfeeding Interventions. Support for Brestfeeding in theWorkplace. U.S. department of Health and Human Services.2005, p7
  9. 労働基準法
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO049.html (2014年10月検索)
  10. 育児・介護休業法 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H03/H03HO076.html (2014年10月検索)
  11. 次世代支援育成対策推進法
    http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/jisedai/kaisei/jisedaihou.html(2014年10月検索)
  12. 児童福祉法,保育所保育指針解説書,厚生労働省雇用均等・児童家庭局、2008
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/hoiku04/pdf/hoiku04b.pdf (2014年10月検索)
  13. 楽しくおいしく食べる子どもに~保育所における食育に関する指針~概要、厚生労働省雇用均等・児童家庭局、2004 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/dl/s0604-2k.pdf (2014年10月検索)
  14. Mohrbacher N and Stock J, The Breastfeeding Answer Book, 3rd ed. Illinois, La Leche League International, 2003, p237-256
  15. Wambach K and Rojjanasrirat W, Maternal employment and breastfeeding. In Riordan J, 3rd ed. Breastfeeding and Human Lactation. Boston. Jones and Bartlett Publishers, 2009 p487-508
 2011/2/27作成(2014/11/1改訂)
ダウンロードは、こちらから→